日本では成人の約9割がなんらかの機会に腰痛を経験しています。そして、腰痛で通院する方の数は高血圧で通院する方に次ぐほど多く、沢山の方が腰痛に悩んでいます。30代・40代の約7割に腰痛の症状があるというデータもあります。
慢性的な腰の痛みに悩む人の9割以上が日常生活に支障があり、5割以上が趣味や休日の外出に支障をきたしています。そして3人に1人は腰痛により仕事を辞めたいと思ったことがあるそうです。
なお、よく耳にする腰痛という言葉ですが、病名ではなく、腰の痛みや腰の張りの症状のことを言います。原因にはいくつかあり、脊椎疾患が原因のものの他に内臓疾患が原因のもの、ストレスが原因の心因性のものがあります。
今回は腰部脊柱管狭窄症や腰椎ヘルニアなどが原因の腰の痛みのため、腰に負担の少ない仕事を探したい、という方に向けて腰痛に悩む方でも出来る仕事を紹介していきます。
どんな時に痛むのか
腰痛の要因としては大きく2つあります。
(1)動作要因・・・「重量物を頻繁に取り扱う」「腰を深く曲げたり、ひねったりする ことが多い」「長時間同じ姿勢で仕事をする」など。
(2)環境要因・・・「身体が寒冷にさらされる」「車輌運転などの全身振動に長時間さ らされる」「職場が乱雑であり、安全な移動が困難である」など。
厚生省「腰痛対策」
これらをふまえて、腰痛の人が仕事を選ぶ上で避けたい事はこちらです。
足腰に負担の大きい重量物を取り扱う仕事を避ける。
前かがみや中腰体制を避ける。
前かがみの姿勢になるだけで腰椎への負担は約1.5倍になります。
前かがみになることにより神経が圧迫され、痛みや痺れが強くなります。
長時間同じ体制で過ごすことを避ける。
姿勢の固定が長時間続くと、同じ筋肉の緊張状態が続くことになり、筋疲労による痛みが生じます。つまり、立ちっぱなし・座りっぱなしは痛みの原因になります。
寒い環境での作業を避ける。
寒い環境にいると筋肉に回る血流が低下し、痛みが生じます。
腰痛のある人に向く仕事
腰痛の要因を避けた仕事を選ぶことが必須になります。
具体的にまとめると次のようになります。
事務職・総務職・コールセンター
基本的には座り仕事で重いものを持つことは少ないです。自分のタイミングで席を立つことも可能で、会社や職種によっては社内を動く機会も多いです。屋内の環境の整備された場所での就業が多く、空調も調整されていることが期待されます。
ただし、事務職は派遣の領域になっており、経験者でなければ狭き門という声もきかれます。活かせるスキルや資格を習得し、未経験者・初心者を採用してくれる企業を諦めずに探す必要があります。
タクシードライバー
昔は腰痛の多い職種でしたが、車の性能の向上に伴い、ひと昔前に比べ走行時の振動は抑えられ、腰への負担は軽減しています。
1回の運転は1時間以内のことが多く、2時間以上の長距離運転はひと月に数回です。運転と運転の間には休憩も取れ、会社によっては勤務中の休憩が義務付けられているそうです。
自分のペースで休憩が挟め、ストレッチも可能ですが、たまに旅行バックなどの荷物を積む業務があるので、観光地等だとその割合が多く腰痛のリスクが高いかもしれません。自動車運転免許さえあれば未経験での求人も多く、40~50代の採用にも積極的な会社が多いです。
施設内警備
施設内警備員の仕事は、入退出管理・搬入の誘導・施設内巡回。施設の開閉や施錠の管理、防犯モニター監視、入り口での見守りの活動等です。
事務所内で座っての業務と合わせて施設の巡回業務があり程よく身体を動かせます。
男性の職業のイメージが強く、実際9割以上が男性ですが、30歳未満に限れば女性も18%を占めています。人手不足が常態化している職種で、求人倍率も高いです。
在宅ワーク
データ入力、翻訳、サイト制作、Webライター、Webデザイナーなどの仕事があります。
自由な姿勢で仕事ができ、ストレッチ等も憚らずできるため身体にかかる負担を分散することができます。
データ入力や翻訳は相応のスキルが必要です。ライターは特別な資格は要りませんが、未経験者は低単価の仕事から少しずつ実績を積んでいく必要があるようです。最初は難しくても慣れてくる、やればやるほど収入になる、という体験談もありました。
なお、コロナによるテレワークを始めてから腰痛が出始めたという声も聞かれます。仕事環境がオフィスのようには整っていないことが原因です。機能的なチェアや作業に適した広いデスクがなく、座椅子に座って作業をする人など人によって事情は様々です。
可能なら腰に負担の少ない椅子や作業に適した机等仕事環境の調整が望ましいです。予算やスペースの問題でそれらが難しくても、座り方やパソコンの高さの調整など行い身体への負担を減らしましょう。
腰痛のある人には向かない仕事
腰痛の要因を避けるのは難しい職種です。
求人サイトでも募集をよく見る職種でもありますが、腰痛持ちの方はやめておいたほうが良いと思います。
工場や軽作業
立ったまま、座ったままの作業を行う事が多く、中腰での作業は腰への負担が大きいです。
座った姿勢での軽作業でも、ライン作業は自分のペースで動けないことが多く、座ったままでキツイ、また作業場が寒いという口コミもありました。
配送業や引っ越し業
引っ越し作業だと冷蔵庫や洗濯機の家電や重い荷物を抱える、運ぶ途中に無理な姿勢で支えることが多いです。運送業では積み下ろしでかがむ動作も頻繁で、腰への負担は大きいです。また運転のため座っている時間も長く、トラック運転手の約7割は腰痛に悩んでいるそうです。
介護職
30代以降に資格を取り、転職先に選ぶ人が多い職種ですが、要介護者のおむつ交換や体位変換、トイレ介助や入浴介助で前かがみや中腰姿勢になることが多いです。要介護者を抱え上げる作業や腰をひねる動作も日常的です。1日中動き回らなければならず、ほとんどの業務は腰に負担のかかるものです。
前かがみになるだけで腰椎への負担が増えると前述しましたが、その状態で要介護者を抱き上げる場面が出てきますので腰への負担は大きくなります。
事前に確認しておくこと
事務職で応募していても、前かがみ姿勢の作業作業や力仕事が必要な仕事を手伝わないといけない、立ちっぱなしの現場に出ないといけないという会社もあるので面接や見学の際に確認しておくと良いと思います。
また、腰痛悪化を予防するには身体をしっかりと休めることが大切です。そして強い痛みが出た場合は動けない状態になったり、安静が必要で会社に行けないこともあります。仕事と休みのバランスや、有休が取りやすい環境かも大切です。
仕事中気を付けること
座り仕事であっても、適宜立ち上がったり、ストレッチをして身体が固まらないように動かしましょう。寒い時期や冷房による身体の冷えにも注意し、ひざ掛けや暖かい飲み物、ホッカイロ等を上手く利用しましょう。
最後に
今回は職種で分けて考えてみましたが、実際の仕事内容が分かりかねる職種も沢山あります。
ヘルニアにより長時間座ったままでいられず転職活動した方が、職種は問わず条件が合う会社を面談し、身体状況について人事の方の理解を得られたという話もありました。
また、若い学生さんで腰痛に悩みながらアルバイトを探している方もいます。
学生アルバイトは一般の就職に比べると職種も限られており、販売や飲食店などの立ち仕事が多いです。働く時間は短いかもしれませんが、痛みがある場合は若いからといってすぐに治るとは限りません。痛みの要因になる状況は避けたアルバイトを探しましょう。
腰痛は治るものもあれば、根治は難しいものもあります。後者は腰痛と付き合いながら生活をしていかなければなりません。自分の病状に合った働き方のできる仕事を探しましょう。